お弁当作りを始めた、ある朝
いつもより少し早く目が覚めた。レンジで具材達を温めてお弁当箱に詰める。ただそれだけ。
母が何かにつけて口を挟むので「ほら、昨日のはじめてのおつかい思い出して」といなす娘。
無条件反射なんだろう、親が子に多くの手を差し伸べてしまうのは。
時間が余ったので伊集院光のラジオを聴きながら準備。
伊集院さんの趣味:路上に落ちた手袋の写真を撮る事だって話。
今日みたいな冷え込む朝から昼間に一気に気温が上がる日は手袋が落ちてる率が高いらしい。
ふうん、面白いなあ…なんて家を出てひんやりとした外気を浴び、自転車を漕ぎながらふと手袋の事を考えていた。
ふと浮かんだのは、毛糸のグレーの手袋。
確かノルディック柄のようなデザインでラメ糸が入っていたかな?
中学生の当時お付き合いしていた男の子からホワイトデーかなんかで貰ったもので。
もう捨ててしまったんだけれど、別れてしまってからも暫く気持ちと一緒にタンスの奥に閉まっていたなあ…ってほろ苦くなった。
なんでこんな事思い出したんだろうか。
朧げな姿形が脳内に浮かんで、煙みたいに消えた。
記憶の引き出しはどのタイミングで開くか分からないからスリリングで面白い。
お弁当はなんとなぁく心が満たされた気がした。